そう思ってくれるのは今だけだ。

 彼が持っているその小瓶の液体を喉に流し込んだら――すべてが、変わる。

「我が儘言わないでください、ジークハルト様。添い寝なんてしたら、起きた時に恥ずかしさで悶絶するのはあなたですよ」

 エリザは、彼を不安にするまいと思ってどうにか笑い飛ばした。

「大丈夫ですよ、私はあなたの治療係ですから、明日の朝、起きたら一番に会いにきます」

 彼を安心させるように微笑みかけた。

「一人の夜が寂しくてたまらなく感じるのも、それを不安に思ってしまうのも、次に目が覚めた時には、全部なくなっていますから」

 すべては呪い――この国に大昔にあった〝術〟による勘違いだから。

 もしジークハルトが、今とがらりと変わってしまったらと考えると不安はある。せめて共に過ごした一ヶ月の友情は残っていて欲しい。

 けれど術にかかっていなくて、エリザの聖女の作用も受けない彼と、合いたいとも思っている。

 たぶんそれが、治療係としてようやく対面できる、本当の彼の姿だから。