そんなことを誰もが思ったかもしれない。

 けれど――エリザはジョークの笑い一つ、出なかった。

「お父上様も、ジークハルト様につき合うと言って、モニカさんたちが就寝を見届けている頃ですから」

 なだめるように優しく微笑みかける。

 ジークハルトにも『呪いが解ける魔法の薬だ』とは軽く説明していた。彼は一切質問はせず、快く飲むことに協力すると言ってくれた。

(早すぎる就寝に応じたのも――呪いのせいなんだろうなぁ)

 エリザは、二人の視線を背中に覚えながら呪解薬の入った小瓶をジークハルトに手渡した。彼はそれを受け取るとじっと眺め、それから視線を彼女へと戻してすぐふわりと微笑みかけてきた。

 相変わらず、心の底から親愛していると錯覚させるような甘い笑みだった。

 こちらが勘違いしてしまいそうなほどに、甘い。

 エリザはうっかり頬が熱くなりそうになった。とくに最近のジークハルトは、熱く、真っ直ぐに見つめてくるのだ。

「これを飲んだら、魔法の力ですぐに眠ってしまうんでしょうね」
「そうだと思いますよ」
「それなら、今のうちに言っておかないと。おやすみなさいエリオ――起きた時、一番に見られるのが、あなたならいいのに」

 それを聞いて、なんだか胸が切なくじりじりと締め付けられた。