「俺だって坊ちゃんを応援してるんだぜ。それから、初めての顔合わせの時からずっと、坊ちゃんのために頑張ってくれているあんたのこともな」
「サジさん……」
「この先も大変だと思うけど、頑張れよ!」

 サジが言い、エリザの髪を乱すように頭をぐりぐりと乱暴に撫でた。

「私こそ、……毎日、美味しいごはんを本当にありがとうございました」

 思えば、彼らと毎日顔を合わせるようになって、もう一ヶ月になる。

 長居ようでいて、短く感じた。

(ああ、もっと居たいな、と思ってしまう)

 エリザは珍しくサジの手を払えなかった。別れを思うと、初めて猛烈に『寂しい』という気持ちが込み上げた。

 ここにいたい、と。

 こんなに人と関わり続けた土地は初めてで、離れがたくなった。

 もしかしたら明日にはバイバイするかもしれない。もしかしたら一日は整理整頓や引き継ぎ、フィサリウスへの報告も兼ねて猶予をもらえるのかもしれない。

 どちらにせよ、お別れだ。

 エリザはラドフォード公爵と、約束もしていた。

 無事に治療に進展などがあって、もう自分が不要だと思った時には、隣国までの旅費を報酬にいただいてここを出ていく、と。

(居られる理由を探したくても、私にできることは何もないし――)

 怪力の魔術具だけでは、毎日の屋敷仕事の役には立てない。

 エリザは『本当にいいところだったな』と、静かに迫りつつある別れに、じわじわと寂しさを覚えた。