ラドフォード公爵は、まだ社交から戻っていなかった。夕食までに帰宅予定であるとは出迎えた際にセバスチャンが教えてくれていた。

「ジークハルト・ラドフォード様は、明日も仕事が入っているとフィサリウス殿下よりうかがっております。できるだけ早い時間に就寝させ、魔法薬を飲みことをおすすめいたします。睡眠時間は個人差がありますが、解呪に時間がかかる場合は十時間かかりますから」

 それは――確かに早い時間で飲ませた方がよさそうだ。

 淡々と語ったハリマは、エリザに透明な液体の入った小瓶を手渡した。

「ご説明ありがとうございます、ハリマ様。つまり眠っている間は全然ちっとも起きないけど心配はいらない、ということですよね?」
「その通りです。それから私には『様』は不要です。魔法使いになれなかった半人前の研究員にすぎませんので、どうぞハリマとお呼びください」

 この国は、やはり【魔法使い】は一つの身分として確立されているようだ。