「ちょっ、ジークハルト様苦しいです! 骨っ、骨が折れる……!」
「もうちょっとだけ」

 肩と首の間にジークハルトの頭が潜り込んで、髪先がくすぐったい。首筋の匂いを嗅ぐようにすうっと息を吸い込まれた。

 フィサリウスが、額に手を当てて天井を向いた。

 ようやく意識が戻ったのか、寝椅子にいたルディオが頭を持ち上げ、こちらを見たのをエリザは目撃した。

 だが目があって二秒、ルディオが目を回して再びソファに頭を落とした。

「えっ、ルディオ大丈夫――ぐぇっ」
「エリオは甘い匂いがしますね」

 まるで『こっちを意識して』と言わんばかりにジークハルトが深く抱き、肩口に顔を埋める。

「すみません、香水はつけていませんし、私がする匂いもあなた様と同じ公爵邸の石鹸の香りだと思われます!」
「甘い湯にでも浸かっているのですか?」
「は? ……なわけないでしょう! 浸かる時は、モニカさんにもらった薔薇の花弁を浮かべているくらいですっ。あの程度では匂いはつかないかとっ」