「ほら、顔を上げて?」

 耳にそっと吹きかけられた吐息に、びくっと肩がはねる。

 そうすると、またじわりと体温が上がってエリザは困惑と恥じらいが、がーっと背中を登っていく感じに襲われた。

 これはただ、子供が親か兄か師に甘えている感じだ。

 そうは理解しているのだが、ジークハルトが無駄にいい声で、まるで献身的に世話を焼くようなのが、彼女の中の乙女心を揺さぶってくるのだ。

(膝の上に抱えられてケーキを食べさせられるとか、これまで経験になかったんですけど!)

 家族のいなかったエリザには、人生で初めての経験でもある。

 もう二度とやらない。誘われたって、絶対にやらない。

 そんな固い決意を思うものの、両手に赤面を押しつけたエリザの華奢な肩は少女のようにふるふると震えている。

「ジーク、もう少しフェロモンを抑えないとエリオが可哀そうだよ」

 向かいから、フィサリウスのどこか呆れた声が飛んでくる。

「可愛いでしょう?」

(可愛いって何?)

 男の子に対して、その台詞はおかしくないだろうか。