「ほら、エリザ。顔を隠さないで俺に見せてください。口も開けてくださいね?」

 溢れる嬉しさを隠そうともしない腰に響くいい声で、ジークハルトが、両手で顔を覆って俯いているエリザの耳元でそう言った。

 彼女は今、彼の膝の上に抱っこされた状態だった。

 チョコケーキと紅茶一式が置かれたテーブルを挟んで、向かいのソファからフィサリウスの呆れたような視線が注がれているのを感じて、いよいよ目なんて上げられないでいる。

(うぅっ、どうしてこんなことに……!)

 すっかり失念していた。

 ジークハルトの甘え具合が、呪いのせいで大人だったら恥ずかしいことも平然としてしまう状況であることに。

 再会した時、ジークハルトは驚くエリザを気にかける余裕もない、といった様子で泣きついてきた。

 クリスティーナと一対一で行った茶会よりも怖かったそうだ。

『う、腕を触られそうになって……もう、ほんと大変で、意識が飛ぶかと思いました』

 そんなふうに子供みたいに申告されて、怯えきった様子を晒されたら、エリザも心配して『自分にできることならなんでもするから元気を出してくださいっ』としか、言えなくて――。