「なんですか?」
「ふふ――なんでも?」

 男性の使用人が気づき、廊下の端に寄る中、ジークハルトが身を寄せてエリザの左手を攫った。

「ちょっとっ」
「だめですか? 手を繋いでいたいんです」

 彼にわんこみたいな目で覗き込まれて、エレザは「うっ」となる。

(そもそも女性恐怖症なのに、なんでほんと気づかないんだろう……)

 呪いが反応しない理由は聖女の力のせいだが、苦手意識的は頭にあるはずなのに、触れても何も察知しないのは不思議だ。

(……私、戦闘訓練のせいで手が固い、とか?)

 そのせいでいよいよ『少年ぽい』のか、と悩む。

 ――けれど、もしかしたらこれも今日まで。

(ううん、日暮れには、もう……)

 結局のところエリザは、昨夜に続いて今回もジークハルトを甘やかし、手を繋いで一階へと向かった。

 ジークハルトその間、続いて「朝食を一緒に食べましょう」としつこく言ってきた。

 従業員が、主人と同じ席で食事するのはおかしい。そうエリザは言葉を噛み砕いて何度も説明したのだが、「魔法使いは本来身分にくくられないのです」と言い返され、どうも理解してもらえない。

(うん、たぶん、だめだと思うんだよね!)

 貴族と、そうでない者の壁は結構厚いと思うのだ。

(私は雇われている身だし)

 ジークハルトは貴族としてしっかり教育されていると聞いたけど、おかしいなと思いつつ、食卓と呼ぶにしては大きすぎる長テーブルがある部屋へと入った。

 そこには先に来ていたラドフォード公爵がいて、セバスチャンと一緒に振り返ってきた。

 挨拶を返したエリザは、自分も従業員として朝食を別で食べるべく、彼らに半ば無理やりジークハルトを押し付けた。

「食事が終わりましたらうかがいます!」

 頑として意思を曲げない姿勢で、エリザはそう告げてその部屋から出た。