ジークハルトに関しては、これまでセバスチャンがほぼ中心になって世話をしている。

 エリザが治療係についたばかりだった頃に見た数々の症状を思い返すと、どの女性の使用人にも世話ができる状態になるのは大きなことだった。

「モニカさんにそう言っていただけて、少し安心しました」

 まずは、ジークハルトがよくなること。それがみんなの第一なのだ。

 それに結婚相手の第一候補なら、すでに先日顔合わせが成功したクリスティーナだっている。

(公爵家は夫人も娘もいないから、彼女がもしジークハルト様の婚約者として決まったら、モニカさん達も世話ができて嬉しいだろうなぁ)

 モニカと別れ、エリザはいつも通りまずはジークハルトの部屋へと向かう。

 廊下を歩きながら、そんなことを想像した。

 少しだけ――それを寂しいと思ってしまった。

 ジークハルトが、婚約者を持つということになぜだか胸がもやっとした。

 異国の人間で、この国の王子様に魔法使いでさえないと見破られ、住所さえ持たないエリザには関われない世界なのに。