「……お、おぉっ、寝たっ」

 思わず小声でそんな声を上げた。

 大の大人が、絵本の読み聞かせで本当に寝るとは思わなかった。ちゃんとすんなり寝てくれたことにも達成感がある。

 警戒心をなくす幼さを感じるというか、可愛いなという感想を抱いた。

「ふふっ、本当に子供みたい」

 彼の顔にかかった柔らかな栗色の髪を後ろへと梳いた。

 その髪に触れた指先に、可愛い、という気持ちよりも甘くて離れがたいような満たされる気持ちを感じた気がした。

 こうして世話ができる日も、明日までなのだ。

 きっと、そのせいで妙な感じがするのだろうとエリザは思った。

「おやすみなさい、ジークハルト様」

 エリザはベッドサイドテーブルの明かりも含めて小さくし、絵本とマントコートを腕に抱えて静かに寝室を出た。

 ぱたん、と閉じた扉の向こうで、同時に彼が目を開けて「明日が楽しみだな」と笑みを浮かべたことには気づかなかった。

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