「実際にあったことですよ。それで、子供向けの本にはよく使われています」
「そうなんですかっ?」
「南の戦争で全軍の船を浮かべ、それごと敵国に突入して圧勝を収めた大魔法使いの活躍も有名です」
「そ、そうなんですね……」

 それはすごい。エリザは、ジークハルトが髪をどうにかしてくれることにすっかり甘えてしまい、そのまま再びページに目を落とした。

 彼のおかげで、読むことに集中できた。

 結果的に、この大陸の出身ではないエリザには予想もつかない展開の数々で、絵本は楽しかった。

 とはいえ、やはり全部は読めそうになかった。

 ベッドに乗せた腕は、次第にジークハルトの身体の上に遠慮もなくのっかった。絵本の半分で完全に体重がかかり、欠伸がこぼれた。

(あ、ジークハルト様のこと忘れてた)

 そういえば、彼の様子はどうだろうか。

 思い出してページから彼の方へと視線を移動してみると、ジークハルトは目を閉じて穏やかな寝息を立てていた。