貴族のように時間ごとに衣装を変える習慣はない。

 彼が口元を指でなぞり「ふうん」と呟く。

「ジークハルト様?」

 そろそろ絵本を読みたいのだがと思って、きょとんとして呼ぶ。すると彼は口元に艶っぽい笑みを浮かべた。

「いえ、可愛らしいですね」
「…………うん?」

 何が?とエリザは思った。

「もう少し寄ってきてもらえますか? 小さな声でも聞こえる距離がいいな、と」
「いいですよ」

 エリザは絵本を抱え、椅子をベッドのすぐそばまで押した。座った時に膝がふかふかのベッドにあたる位置までぎりぎりに寄せる。

 ジークハルトは枕を端まで寄せ、こちらに身体を向けるような姿勢で横になった。

「さ、きついと思うので、ここに本と腕を乗せていいですよ」

 読み聞かせるのはエリザなのに、彼が自分のかぶっている掛け布団の上をぽんぽんと叩き、指示する。

(まぁ半ば業務外、という言い方をしていたし)

「それならお言葉に甘えて」

 かっちりとした魔術師団のマントコートを脱いでだいぶ軽くなったので、エリザは楽な姿勢をすることにしてベッドに寄りかかった。