「息子の病気については、海を超えるくらい遠くの異国の者には診てもらったことがなくてね。ぜひ一度、うちの息子に会ってみてはくれないだろうか?」

 意識してそうそう、顔面が崩れそうになった。

 ラドフォード公爵は、期待が滲む眼差しを向けている。

(やっぱりそうくるか……)

 ルディオに紹介された可能性から、なんとなく察してはいた。

 エリザは、目頭を丹念に指でほぐしながら切り出す。

「あのですね、公爵様。私は治療関係は専門外ですので、お力にはなれないかと――」
「頼むっ、あとは最強の【赤い魔法使い】である君にだけ可能性が秘められているのだ!」

 ラドフォード公爵にテーブル越しに手を握られ、エリザは驚いた。

 見つめ返してぎょっとした。彼の涙腺はほぼ決壊しており、訴える声は悲痛の響きを持っている。

「どの治療係もすぐに辞めていってしまった。身分の違いから、対応が困難なために事態したいと早々に申し出る者も続出した」