「童話です。つまり、絵本です」
「ど、――」

 エリザは言葉が詰まった。

 童話、つまるとろ彼がばっちり口にしてくれたように、まさかの『絵本』だった。

 確かに書庫の一角には、幼少の子供向けの内容らしき本も並んではいた。でも――。

(それを果たして十九歳の男性が読みたくなるだろうか……)

 いや、聞きたくなるのかも分からないし、そもそも読み上げられるそれを楽しめるのか?という疑問も止まらない。

 けれど――明日には、呪解薬が届く。

 夜、眠るまでそばにいてというおねだりは、あの茶会からずっと続いていたことだった。

(彼の子供っぽい甘えも、今日で終わりだとしたら……最後くらいは付き合ってあげてもいいのかもしれない)

 女の子としては、夜に男性の寝室にいるのはどうなんだろうなと思うもの、そもそも自分は彼にとって『男の治療係』だ。

「分かりました」

 エリザは覚悟を決めつつ、諦めたように息を吐いた。

「いいんですか? 嬉しいです、ずっと断られていましたから」

 それはそうだ。一人で寝室に、なんてさすがのエリザでも気が引ける。

 でも、今日まで全然性別がバレていない。こうなったら最後の最後まで『男の子』としてジークハルトに付き合おうと思った。

「あまり遅くならないうちに私は引き上げますけど、それでもいいのでしたら。さすがに夜は眠くなります」
「それで構いませんよ。無理はさせないつもりです」

 本当に、彼はすんなり寝てくれるのだろうか。

 エリザは少しだけ心配になる。じっとしていると眠たくなるので、どうか自分の限界がくるまでに寝付いてくれるといいけれどと思いつつ、要望を聞く。

「ご希望の絵本はありますか?」
「あなたが読みやすいものでいいですよ。この国のよくある童話も、あなたには初めてでしょうから楽しめると思います」

 それならあとで寝室に向かうとエリザは言って、ひとまず先に廊下へと出た。