エリザは普段、彼が難しいたぐいの小説を読んでいることを知っている。

 読み聞かせという言い方をされると、それは彼やエリザが先程まで呼んでいた本ではないのは確かだ。

 ジークハルトは今、呪いの効果で、聖女の血を持っているエリザに対しては精神年齢が幼い感じになって甘えてくる。

 とはいえ見た目が立派な好青年だ。しかも、令息で、騎士だ。

 まさかそんな彼が絵本を思ってそう言い出したわけじゃないよねと、呪いのせいで発生している目の前のギャップに、つい戸惑ってしまうのも事実で。

「どうしました?」

 いや、黙っていてもなんにもならない。

(うん、治療係である私が、ジークハルト様を不安にさせてどうするのっ)

 彼は呪いの副産物で自分がこんなことになっている、という違和感さえ抱いていない。呪いは自覚できないのだ。

 もしかしたら目の前の棚に入っている小説かもしれないし――。

「……あの、いったいどのような本をご所望なんですか?」

 エリザは、意を決して尋ねてみた。