ジークハルトはソファの背に持たれて、楽な姿勢で足を組んだ状態で、片手に小説を抱えていた。エリザは肘掛側にクッションを置き、そこに半ば寝そべるようにして先程の本の続きを読むことに集中した。

 治療係は、基本的に就寝時刻より一時間前までの勤務だ。

 その間はジークハルトと行動を共にする。

 最近は彼の泣き事が各段に減っているため、互いがそれぞれ本を読むのも、よくある光景の一つになっていた。

(――でも、これは今夜までか)

 ふと、向かいのソファにいるジークハルトの様子を眺めて、エリザは集中力を切らした。

(この光景もこれで、見納めなんだ――……)

 そもそも、彼がこれだけ安定しているのなら『住み込みの治療係』の付きっきりも、もう不要だ。

 給料をもらっているのが申し訳ないな、となって、そろりそろりとソファの下に足を戻した。ジークハルトが気づき、片手に持っていた本から、ふっと視線を上げてきた。

「何か口寂しくなりましたか? それなら甘いものでも用意しましょうか」