「じゃあ、今以上に悪化することはないんですね」
「あれは悪化ではなくて……」

 聞いた話を思い返すみたいな顔をして、フィサリウスが天井を見た。

「それで、この国の『精霊の力を借りる大昔の魔術』というのは、現代でも解けるようなものなんですか?」
「うん、そこも安心して欲しい」

 彼がエリザへ視線を戻して、はっきりと請け負う。

「実際に現地に人を派遣して色々と話も聞いてきてもらった。ああ、そういえばさっきクッキーを食べたと言っていたけど、何かお菓子を持ってこさせようか?」

 話が飛んで、エリザはちょっと拍子抜けしてしまった。

「いいえ。というか、殿下は流れ者の私に甘すぎません?」

 これまでを思い返すと、色々となんとも破格の対応のような気がした。

 すると、フィサリウスはにっこりと笑った。

「私は、素直で可愛い子には甘いんだ」

 なるほど、はぐらかされたらしい。

 エリザは真面目な顔でそう思った。表情から察した彼が、ちょっと残念そうな目をしてソファの背にもたれかかる。