もう、とにかく、話を聞いて欲しかったのである。

 その『眠るまでお話して』のおねだりを回避した翌日、つまり今朝だ。

 ラドフォード公爵家の侍女長モニカが、エリザに「小腹がすいたら食べてくださいね」と気を利かせて手製のクッキーを持たせてくれた。もちろん、王宮で『待つ』時間が長いエリザのために、である。

 ジークハルトが羨ましがったので、もちろん分ける――とは馬車の中で約束した。

 だが、ジークハルトは、あろうことか同僚や部下達が集まった訓練場の前で、頭を屈めて目線をエリザに合わせ、堂々こんなことをねだってきたのだ。

『今食べたいので、クッキーを食べさせてください』
『は……え、嘘ですよね? ご自分で取って食べるとかでは――』
『ないですね。エリオの手から、食べたいです』

 周囲一帯がぎこちない沈黙に包まれた。

「もうっ、とにかくおかしいんですよ! この前報告書で教えた、術の実行者と接触してから!」
「あー……ロッカス伯爵令嬢と令息が訪問した日かな?」
「まさにそれです! その日です!」