「俺も、まさかうっかり、あなたの指まで食べてしまうとは思ってもいなくて。すみません」

 ジークハルトは、疲れきったエリザとは違ってきらきらと輝くような笑みだった。

 本当かどうなのかあやしくなってた。

 けれど、今はいい。そんな笑みも美しいとか思っている自分が嫌だし、胸は変に高鳴っていし、とにかく気持ちを切り替えないと……!

 時間が押してしまったし、散歩の休憩は終了だ。

 エリザは彼を仕事場に送り届けないといけない。何より、やや距離を置いて、一部始終を見ていた人たちが床に膝をついて悶絶し、ショックを隠しきれない様子で項垂れたり黄色い声を上げて楽しそうにしていたり、などなど騒がしいのも大変気になる。

「ルディオ、あとで覚えといてね」
「えー、あれは不可抗力」

 というかエリオがちょろいのでは、とボソッと聞こえた。

 エリザはぷつんっと切れて、顔の熱を冷ますようにルディオを追いかけた。あとに続いたジークハルトが、小さく笑って、

「ますます目を離せなくなるし、欲しくなるじゃないか」

 と呟いたのを回廊から出た先で聞いた令嬢たちが、また黄色い悲鳴を上げていた。

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