「えーと、……何かあったんでしょうか?」

 目を離していたのはほんの数秒、という覚えがあるのだがその間に急展開でも起こったのだろうか。

 ジークハルトに視線を戻してみると、相変わらずニコニコとこちらを見つめている。

 どこか呆気に取られたように、それでいて同時にルディアはなんだか感心した様子の表情だった。

「さぁ、なぜでしょうね。ところでキャンディーは?」
「あ」
「ご褒美、してくれないんですか?」

 新記録を達成したのに?とジークハルトが、笑顔でねだってくる。

 笑っているのに怖いなんて変だな、目が疲れているのだろうかと思ってエリザは目頭を一度押さえた。仕方ない、溜息をはぁっと吐く。

「分かりました。じゃあ頭を少しさげてもらえますか?」

 ジークハルトが背を屈めた。目線の高さをエリザに合わせて、なんの疑問も持たず口を開ける。

(うわーっ、睫毛も長いっ。さすがに綺麗な顔してるなぁ)

 なんだかどきどきしてしまった。大きなわんこを手懐げている高揚感だろうか。