自分の耳がおかしくなったのだろうか。

 エリザは本気で考え込んだ。すぐそこにいるルディオに目を向けると、なぜか唇をぎゅっとつぐんでいる。

(何、その顔? どういう感情からなの?)

 ひとまず、何も言わないぞ、頑張れと見放されているのは分かった。

 エリザは一度深呼吸をした。間違いかもしれないしなと思って、よーしと意気込んで改めてジークハルトを見上げてみた。

「すみません、もう一度言ってくれますか?」

 目が合った瞬間、ひとまず夢にすることにしてズバッと告げた。

「エリオの手で、俺にキャンディーを食べさせてください」

 やはり聞き間違いでもなんでもなかった。彼は堂々、きらきらと信頼しきった眩しい微笑みを浮かべてはっきりそう言った。

 近くを通りかかった若い騎士が、ぎょっとしたようにこちらを振り返ったのが見えた。

(うん、分かる――なんで手で食べさせてもらいたがるの?)

 十九歳、いい大人。キャンディー……ちょっと頭が痛くなってきた。