「小さな口ですね」
「へ? まぁ、そうですね。たぶん小さい方、ですかね……?」
「まるでマシュマロみたいに柔らかそうです」
「マシュマロ!?」

 訳が分からない。これは、確実におかしい。

(ハッ、もしかして『まじない』をした実行者と長らく接したことで、何かしらの異常が起こっているのでは……!?)

 可能性はありありな気がしてきた。『呪い』の作用が強まったせいで、エリザの浄化作用を強く覚えているのでは?

 そうだったら困る。どうよう。

 怪力でジークハルトを投げ飛ばす、なんてことをしたらさすがにアウトか。公爵令息だ。そもそも、それで彼が正気に戻ってくれる気もしない――。

「目の前に僕がいるのに、何か考えごとですか? もしかしてレイヤのことでも思い出しているんですかね」
「え、なんでそこでレイヤ様が出――」

 ぱっと視線を上げた瞬間、エリザは彼の指で唇を押さえられて言葉を遮られていた。

「ここにもキスをしてみていいですか」
「えっ、こ、こここここ、ここ、とは……?」

 もう嫌な予感マックスで恐々と尋ねてみると、彼が「ここです」と唇を撫でた。

「小さくて柔らかい口の中も全部、僕のもので直接触れて、確かめてみたい――とても甘そうだ」