「よく覚えていません」
「覚えてないって、そんなはずは……ひぇ」

 なぜか彼の手がエリザの顔を撫で、指が頬の形をなぞってくる。

「ああ、確かに他の女性とは違っていたように思います」

 答えているのに、ジークハルトの親指が唇をゆっくりと撫でてきて、エリザは困惑で考える能力が飛びそうになった。

「そ、そそそうですよね? ほら、唯一拒絶反応が出なかったじゃないですか? 実はそれ、呪――っ」

 唇をふにゅりと、絶妙な力加減で触れられて身が固まった。

 すごく嫌な予感がする。ものすごく、だ。

 自分の口許にジークハルトの強い視線を覚え続けているのは、エリザの気のせいであって欲しい。心なしか彼の眼差しが熱いとか、もう、全然気付かなかったことにしたい。

「……あのー、なんで触っているんでしょうか?」

 思わず口から質問が出た。

「まだどこにも触れていませんよ」
「えっと、おかしいな、話しているのに視線が合わないんですけど……えぇとジークハルト様? いったい、ど、どこを見ているのでしょうか?」