後ろに引っ張られ、同時に腹部に腕が回って身体が浮く。

「うわっ」

 そのまま寝具の中に引っ張り込まれた。

 ぼすんっという衝撃を背中に感じた時、エリザは、目の前に覆いかぶさるジークハルトがいて目が点になった。

「……はい?」

 いったい、どういう状況だろう。なぜ、エリザが彼のベッドに横になっているのか。

 両手をついて見下ろしているジークハルトの青い目が、感情の読めない色ですぅっと細められる。

「…………たから……わざわざ彼女から引き離したのに……まさか兄の方までとは……」

 何か言っているが、独り言なのかよく聞こえない。

「あ、あの、ジークハルト様?」

 すると、指で顎をくいっと上げさせられた。

「親愛の挨拶のキス、でしたっけ? あれが二度目だとすると、一度目があったんですよね? どちらも左頬で間違いないですか?」

 左?とエリザは疑問を覚える。

 思い返してみると、馬車の前でされた時は確かに左だった。よく覚えているなと思いつつ、さらに記憶を辿る。