「結局拒否権がない感じのやつなんですか?」

 レイヤは言い終わるなり、勝手に頬へ唇を押し付けてしまっていた。

 遅れてやって来たクリスティーナが「まぁっ」と頬を両手で押さえる。

「お兄様ずるいですわっ」
「親友への親愛な挨拶だからいいんだっ、男同士だから問題ないのであって、クリスはだめだぞっ」

 なぜだかレイヤが、ロッカス伯爵に言い訳するみたいにそう告げた。

「わたくしだってエリオ様とお話したいわ――」
「さっ、これから母上と合流しなければならないからな! ランチで報告すると言っていただろう、さあさあっ」

 レイヤは、クリスティーナを馬車に乗せた。顔が赤いまま、続いてロッカス伯爵を急かすように背を押して馬車へと詰め込む。

「すみませんラドフォード公爵、息子がどうも早く帰りたいようで」
「いえ、いいのですよ。うん、早く出立された方がいいでしょう」

 ラドフォード公爵も何やら賛成なようで、車窓ごしの別れも手短に済ませる。レイヤが「親友だからな!」と窓から顔を出して告げた声は、護衛たちの騎馬を同行させて発進した馬車と共に遠くなった。