もどかしい気持ちで、一足先に護衛たちが待つ伯爵家の紋章入りの馬車の前に到着した。

 ようやく腕を離したレイヤが、父と妹の到着を待ちながら自宅に花園があるのだと突然語り出した。今の時期には見応えがある秋の花たちが咲いているらしい。それから、歴史ある屋敷なので伯爵邸も立派であること――。

「なるほど」

 相槌を打つものの、レイヤはほとんど聞いていない感じだ。

 よく喋るなと思ってみていたら、彼が気もそぞろであることに気づいた。何か緊張をはぐらかすためにずっと喋っているみたい――。

「エ、エリオっ」

 唐突に腕を左右からレイヤに掴まれた。

 びっくりして目を丸くしたら、彼はどこか緊張した様子でごっくんと唾を呑む。

「そ、その……親友にっ、挨拶である『親愛のキス』を送ってもいいだろうか!?」

 なんだと思って拍子抜けした。

「重大な秘密でも明かされるのかと思いました。それを伝えるために腕を掴まなくても――」
「じゃあするからなっ」