ジークハルトの声は紳士的だったが、なぜか声がワントーン下がっている気がした。それから『僕の』が、かなり強めだ。

 エリザは小首を傾げた。彼の目が、レイヤとまだ繋がれたままの手へと移される。

 ルディオが緊張した様子で、探るように彼を見つめていた。ラドフォード公爵が、エリザへ近づこうとしたロッカス伯爵を引き留めた。レイヤに声をかけて「とてもいい茶会だった、また機会があれば――」とクリスティーナも含めて一家への言葉を述べる。

「馬車の準備が整いました」

 ロッカス伯爵家の護衛から知らせを受けて、セバスチャンがぎこちなく告げた。

 するとレイヤが得意げに笑って「見送らせてやるぞ!」と言い、エリザの腕を抱え込むように掴んで走り出した。

「ぅわっ、ちょっと待ってレイヤ様っ」

 腕にしがみつかれていると走りにくい。

 後ろから、歩いてあとに続くクリスティーナの「仲がよくて羨ましいです」というような声が聞こえてきた。

(ああっ、せっかく『まじない』をかけた令嬢が誰か分かったのにっ)