(いや、ルディオは護衛騎士役に集中しようよ)

 クリスティーナの走る姿勢が、なんだかとっても危なっかしい――そう思った時だった。

「きゃっ」

 走り出して数歩、彼女が薔薇園に敷かれていた芝生によろめく。

 エリザは「まずいっ」と、レイヤと一緒になって咄嗟に駆け出したのだが――。

 その瞬間、よろめいた彼女の腕をジークハルトが掴んた。

「え」

 近くから見ていたラドフォード公爵、そして事情を知る全員の口から呆気に取られた声が出た。もちろん、エリザもその一人だ。

 クリスティーナは頬を羞恥に染めて、令嬢なのにはしたないことをしたとジークハルトに詫びて、礼も言っている。彼はすぐ手を離したがとくに異変もないまま「大事がなくてよかったです」と社交の笑みで答えていた。

 ――蕁麻疹もない、パニックを起こす気配も、なしだ。

 エリザはとんでもない事実に気づいて、固まった。

 唯一の『呪い』の症状が出ない。それは……術者本人だ。

 それは魔術だけでなくて、魔法も基本的にそうだとは呼んで行った本からも理解していた。