とりあえずクリスティーナへの誤解も解けたし、嫉妬を向けられずに済んでよかった。

「そろそろ戻りましょうか」
「ま、迷子になるから手を繋げ!」

 レイヤが突然手を差し出し、そう言ってきた。

(なるほど。なんてお坊ちゃん)

 普段は使用人か誰かが案内しているのだろう。一人で初めて訪問した屋敷を歩いたのはシスコンの力、つまりは奇跡――。

「なんだ、その生温かい目は?」
「いーえ。そういえばお客様だったなと思い出しただけです。かまいませんよ、さ、行きましょうか」

 エリザは彼と手を繋ぎ、薔薇園へと向けて歩き出した。

 挙動不審だったレイヤは、途端に大人しくなってしまった。横目に確認してみると、なんだか頬を上気させて楽しそうだった。

(居合わせるのはまずいし、案内するのは近くまで)

 そう言い聞かせて歩いていたのだが、気付いたら薔薇の匂いがふわっと香ってきて、建物の角を曲がったら薔薇園がすぐそこに広がっていた。

「あ」

 ジークハトルとクリスティーナ、そして円卓を挟んでラドフォード公爵とロッカス伯爵らしき男が「よき茶会だった」と挨拶を交わしていた。