「さすが物知りですねぇ」
「貴族御用達なんだ。みんな知ってるさ」

 レイヤはぶっきらぼうに言ったが、乱暴に飴を口に放り込んだ顔は、まんざらでもなさそうだった。

(うん、元気になってよかった)

 エリザは胸を撫で下ろした。さて、これで無事誤解も解けたし、そろそろ退席しようかと考えた――ところでレイヤが急にまたマントコートを掴んできた。

「え。なんで掴むんですか?」
「失礼にも僕の前から勝手に去ろうとする気配を感じた」

 なんて野生染みた直感力なんだ。

 妹へ色目を使った云々は完全に誤解だが、なぜこういうところでは正確に発揮されるのか。

「お前、みんな僕には媚びを売ってくるんだぞ。お前も魔法使いであるならば僕と仲良くしておいても損はないはずなのに、なんで逃げるんだ」
「まだ逃げてません。その直前に阻止されました。あ、すみません口が滑りました」

 少し高い目線からジロリと睨まれて、エリザはあわあわと言い直す。

「あのですね、仲良くしようとか畏れ多いです」