ようやく思い出せてすっきりした。別の貴族と言えば、今来訪中のロッカス伯爵家以外にはいないだろう。

(うん、彼との出会いが強烈すぎて。ううん可愛らしさが全然ないのがだめだった)

 額に手をあて、ふーと言ったエリザに彼、レイヤがイラッとする。

「おい、何が言いたい。あと勝手にスッキリされた表情をされるとムカツクんだが?」

 ご子息様も『ムカツク』と使われるらしい。

 あ、いや、相当苛々しているのかもとエリザは遅れて悟った。

「えぇと、クリスティーナ様の兄上様でしたか。ですが、どうしてわざわざ茶会が見られる場所からこんな裏手にぐるっと回ってまで私を捜していたのでしょうか? そもそも色目を使ったと言われましても、私には何のことだかさっぱり……」

「ジークハルト様なら仕方ないが、お前が舞踏会で妹をそそのかしたせいで『【赤い魔法使い】様……』と妹が可愛い溜息をついていたんだぞ!? ついこの間まで『お兄様と結婚する』と言っていたのに、ジークハルト様だけじゃなくて、お前まで出てきたせいで僕の名前を呼ばれる回数がまますます減ったじゃないか! しかも父上はお前と仲良くするようにとか言ってくるし、クリスがお前に恋心があると言ってるようなものだろう!?」

 やべぇ、こいつ重度のシスコンだった。

 怒涛のような心の訴えを吐き出されたエリザは、地団駄を踏むレイヤを前に後ずさった。