「…………」
「……こ、こんにちは?」

 恥ずかしい現場を見られたと言わんばかりに、彼の顔がぼっと赤く染まる。

 その直後にギッと睨まれてしまい、エリザは口許の笑みを引き攣らせながら、ひとまずそう言った。

 ――というか、彼は誰だろうか。

 彼はどこかで見たような、軽くウェーブを描く明るい栗色の髪をしていた。見たところ貴族令息のようで、いい身なりをしている。年頃はやや下そうだが、立った彼は小さなエリザよりも少し頭の位置が高かった。

 相手は貴族。これはまずい、無言でいるのは名乗るのを待っているせいかとエリザは素早く考えた。

「え、えぇと――大変失礼をいたしました。お初にお目にかかります、ラドフォード公爵家の臨時の治療係で、【赤い魔法使い】の〝エリオ〟と申します」

 最近では慣れた、王宮の男性がよくやっているように一礼をする。

 すると少年が「ふんっ」と鼻を慣らした。

「僕の〝魔法眼〟が反応しないということは、偽名か。さすがは慎重な魔法使いといったところだな」

 ふてぶてしい生意気たっぷりの声が返ってきた。