(そそろ支度は終わったかな?)

 着替えるというので、休憩で厨房に水を貰いがてらいったん出たのだが、果たして無事でいるのか気になった。

 向かっている途中で、同じく菓子の袋を引っ提げたルディオと鉢合わせた。

「何そのお菓子」
「いや~、暇ならつまもうかな?って」
「空気読もうよ。たぶん、もしかしたらだけど、ジークハルト様はお菓子なんて入らないかもしれないよ」

 二人でそんなことを話しつつ、ジークハルトの私室へ入室する。

 当のジークハルトは、使用人達に磨き上げられて貴族の正装に身を整えられていた。まるで理想の騎士様といわんばかりに美貌を映えさせてキラキラと輝いていたが――その表情は、まるで死刑執行を待つ囚人のように血の気がなかった。

「お、おーい? 大丈夫かよ、ジーク?」
「ジークハルト様、とりあえず呼吸はしてください」

 なんてこった。めちゃくちゃだめじゃん、とエリザは思った。身支度のための道具を片付けている男性使用人と、中堅らしきメイドが数人『頼みましたよ友人様と治療係様』という空気感をかもしている。