「ありがとうございます」

 エリザは、親切な王子に心から礼を述べた。

「ところで、君の本当の名前を聞いてもいいかな?」
「ごほっ」

 安心して紅茶を飲んだ矢先、さらっとそんな質問をされた。

(なんたる不意打ち)

 エリザは、眩しいフィサリウスの笑顔をげんなりと見やる。

「……殿下、はかってやってます?」
「まぁ、食えない男だとは植われるね。でもそれくらいしっかりしていなきゃ、王太子としても、それからトップの魔法使いとしても色々と見られないよ」

 にこにこと言われるけれど、参謀枠だと圧をかけられている気がする。

(……今名前を教えないと、次の手で名前を聞き出すということかな……?)

 エリザは悩んだ。ぐるぐると考えている様子を、フィサリウスが「わー、とっても顔に出る子だねー」などと憎たらしいことを言いながら、にこにこと見守っている。

(あ、だめだ。彼にとって、私は子供くらいに太刀打ちできない)

 権力と身分もそうだけど、頭脳でも絶対敵いそうにない。