その翌日。

 ジークハルトが合同訓練に参加したタイミングで、エリザはフィサリウスの私室に呼ばれた。

「えーと……私がここにいていいのでしょうか?」

 休憩がてら、王太子と紅茶を共に飲むことになって恐縮する。

 エリザを男だと信じて疑わない使用人が去っていくのを、横目で追い見ながらフィサリウスは笑った。

「構わないよ。実はね、ずっと気になっていたことがあって――君とは一対一で話したいと思っていたんだ」

 二人きりになったところで、フィサリウスがそう切り出した。

 フィサリウスは優雅に長い足を組み、美しい微笑みで見据えていた。エリザが緊張を覚えて背筋を伸ばすと、安心させるように目元を和らげる。

「怖くないよ、大丈夫」

 困ったように彼が言った。

「女の子にひどいことをするような男ではないから」
「そ、そういうことを言われると、一層緊張してしまうのですが……」
「ははっ、案外警戒心はあるんだね」
「師匠に、そういう風に育てられましたので」

 どうにか答えたら、彼がにこりとする。