「そろそろ行くの?」
「おう、演習場は近くだから休憩時間内で戻れるし」

 すると彼が、一歩を進めようとしたところでハッと振り返ってくる。

「まぁ、また次に来てもここにいるよな?」

 いつからか、彼はそんなことを確認するようになった。

 流れていくような旅だと言ったせいだろう。

 この国の本は魔法仕掛けで、読み手の言語へと自動変換された。とくに王都とその近くは本に困らなくて、つい余暇を楽しむように居座ってしまっていた。

 何より、しばらくエリザも誰かとお喋りしていたかったからだ。

 もうホームシックはなくなった。大人になったから。

(――でも)

 ルディオがおずおずと窺う顔は、まだお別れの準備ができていないみたいだった。一つ年上のくせに、別れを恐れているみたいだ。

「まだいるよ」

 だから、エリザは残り少ない紅茶を飲んでそう答えた。

「王都に入ったところにある図書館の許可証、ようやく【赤の魔法使い】の活動証明でとることができたから」

 欲を言えば、もっと本を読んでみたい。

 それは、ここを出てもできることだ。けれどエリザがそう答エリザと、ルディオが子供のように瞳を輝かせて「また」と笑った。