エリザは、反射的にぱっと手を離して後退した。ジークハルトが止まって、作り物のような美貌で覗き込んでくる。

「どうして避けるのですか?」
「ど、どうしてって……」

 彼の隣に座っているルディオも、目を丸くして状況を見守っている。

「……あの、ジークハルト様こそ、なぜ手を伸ばされたんですか?」

 ジークハルトが、まるで自分でもよく分かっていない顔でゆっくりと手を見た。

(また不安状態、なのかな?)

 室内の緊張感が、いまだ拭えていないことから考える。フィサリウスとハロルドも、息を潜めているのが伝わってた。

 エリザは、重々しい空気を変えるべく続けた。

「えっと、治療係として私はまだまだ頼りないですが、ジークハルト様の不安も取り除けるようがんばっていきたいと思っています。できることから一つずつ応えていきますので――」
「では、ケーキを食べさせてもいいですか?」

 ……はい?

 咄嗟に言葉が出なくなってしまった。