ひとまず落ち着けよう。

 これまでも大丈夫だった。そう自分の心に言い聞かせながら、エリザは歩み寄ってジークハルトの軍服をつまんで引っ張った。

「えぇと、ジークハルト様?」

 つんつん、と引っ張ると彼の目がこちらを向いた。

 その青い目が、やや見開かれる。

「……エリオ? どうしたんです?」

 良かった、話は聞いてくれそうだ。

「ええと、私はあなたの治療係ですし、あなたの許可なしには引き抜きもないかと……だから不安を感じられる必要はないかと思います」

 安心させようと思って、ぎこちない微笑を返した。

 ジークハルトはピクリとも笑わなかった。じっとひたすら見つめられ、エリザは身じろぎした。

(これ、初めての状況だな……一度、経験者達にアドバイスを求めた方がいい?)

 そう考えて視線を逃がした時、彼が手を伸ばしてくるのが見えた。

(あ――私、女の子だ)

 彼の女性感知能力が発動して、蕁麻疹が起こるのではないかという不安が過ぎった。