公爵令嬢はとても可愛いのだけれど、男性として好意を寄せられているとなると困るのも確かで――。

 その時、ハロルドが小さな声で一同を呼んできた。全員、そこを見るようにと忙しなく仕草で伝えてくる。

 エリザはふと、ようやくジークハルトが空気のように静かなことに気付く。

(なんだろう?)

 そう思って、フィサリスウやルディオと共に目を向けた。

 そこにいる笑顔のジークハルトを見て、残る目の前のケーキなど食べられなくなってしまった。そこから発せられる冷気に肌が冷えるのを感じる。

(……誰だ、これ。もしや恐怖の大魔王か?)

 ジークハルトが、これまで見たこともない爽やかな笑みを浮かべている。しかし目は、一切笑っていない。

 ずっとこちらを見ていたようで、目が合うと彼がにっこり笑った。

 エリザは、得体の知れない威圧感に息が詰まった。

(なんだろう……とにかく、めちゃくちゃヤバイ感じがする)

 フィサリウスとハロルドも、エリザと同じように顔を強張らせている。