「あ、の……少しだけ、お時間をいただけませんか?」

 虫の鳴くような声でそう言われた。

(何これ。どういうこと?)

 ひとまず、許可をもらうようにジークハルトを窺うと――彼はすでにルディオの背後に回っていた。

 おい、何逃げてんだ。

 可愛いだけの害のない女の子に対して、それはなくない?

 エリザは呆れかえって睨むが、ジークハルトは警戒してメイドを見つめている。彼に盾にされたルディオは、ニヤニヤとした気味の悪い笑みを浮かべてこちらを眺めていた。

「あ、あのっ」
「はい、なんでょうか?」
「実は、その、【赤い魔法使い】様は甘いものがお好きだと窺いまして」

 向こうの方で、二名のメイド達も大変そわそわした様子で待っている。

 そこから、エリザは目の前の彼女へと視線を戻す。

「はぁ。まぁ好きですけれど……」

 それがどうかしたの、とは続けられかった。

 好き、と伝えた瞬間にそのメイドが湯気立つほど顔を赤く染め、目にも止まらぬ速さでエリザの口に菓子を突っ込んできたのだ。