「……友人が無事で何よりだ。ストレスは身体に悪いから、無理をせずに帰るといい。私は先に退出させてもらうから、また明日会おう、ジーク」
「はい。おやすみなさい、フィー。良い夢を」

 ジークハルトが、向こうの関係者出入り口をくぐるフィサリウスを見送った。

 二人の会話を聞きながら、エリザは蕁麻疹などの症状が出なかった原因にハッと思い至った。

(つまり、ジークハルト様の女性感知能力がまたしても働かなかったんだ)

 嘘でしょ、と思う。

 気配のみならず、触れる行為にでも無反応。さすがに触られたら女性であると気付かれるのに、どうして彼にはバレないのか!?

 すると、ジークハルトが両手をわななかせているエリザに気付いた。

「エリオ、どうしました?」
「……いえ、別に」

 不可解なことは、もう一つある。

 いつの間にか、ジークハルトが普通に名前を呼んでいることだ。

(確か初めの頃は、【赤い魔法使い】とか口にしていた気がするけど……)