さすがのフィサリウスも、彼が泣き付くという行動に出るのは予想外だったらしい。戸惑いがちに彼の腕を掴んで、立つのを手助けする。

「ジーク? その、言いにくいんだけれど……君、どこかに異常は?」

 フィサリウスが慎重に確認した。

「は? いいえ、とくには。ああ、走っている間に震えも収まったようです」

 ジークハルトが自分の手を見る。

 エリザは唖然とした。フィサリウスも一瞬神妙な顔をしたが、「とりあえず涙は拭きなよ」と言って自分のハンカチを手渡していた。

(でも、本当に大丈夫なのか?)

 先日、屋敷で倒れたばかりだ。

 エリザは、涙を拭うジークハルトの周囲を歩き回った。服から覗く白い肌を急ぎ観察していく様子を、気付いた彼が目で追う。

 その様子を、フィサリウスが何か言いたそうに見つめた。

「……ジーク、何をそう見ているんだい?」
「いえ、僕の周囲をぐるぐる歩くのが、いいなと」

 フィサリウスが困惑の表情を浮かべる。