(いや、だめだ。これはまずい)

 エリザは血の気が引いた。脇腹に縋るような頬ずりをしてくる男の高い体温に「ひぇっ」と悲鳴がこぼれた。その感触から、両腕で痛いほど腰を抱き締められている状況を正しく理解する。

「ジークハルト様すみませんでしたっ、次からはもう絶対に目を離しませんから手を離してください!」

 手を離せ、というのが主な主張になって申し訳なく思う。しかし、緊急事態なのだ。

 だが、ジークハルトはこちらの話を聞く余裕もなかったみたいだ。

「一人はものすごく心細いんですよっ、僕が一人で頑張っているのに、フィーと楽しく話しているなんてひどいです!」

 楽しく話した覚えはない。正体を知ってからは緊張しかない。

 その時、言い終えたジークハルトが、エリザの脇腹にぐりぐりと頭を押し付けた。ぞわぞわして彼女は悲鳴を上げる。

 ハッとして、咄嗟に高い声はやめたけれど。