「あはは、君って面白いねぇ」

 どこが? ちっとも面白くねぇよ!

 治療係としてサポートに入っていたのに、今、そのジークハルトからものすごい形相で追いかけられている構図はよろしくない。

(泣くよりもマシとはいえ、あれも評判落ちるんじゃないの? 大丈夫?)

 それとも普段、ストレスが溜まってブチ切れた際に見せている姿なのだろうか。

 そんなことを考えている間にも、フィサリウスが空席になった壇上の椅子を通過し、カーテンの奥へと進んだ。

 そこには人の気配がない通路が続いていた。

 会場の演奏音や声が鈍く響いている。エリザは、そこでようやく降ろされた。

「すまなかったね」

 女性を担ぐものではない、というようなことを言いたいのだろう。

「いえ、大丈夫です……」

 エリザは腹をさすりながら言った。精神的な疲労感の方が凄まじい。

 その時、厚くて重いカーテンが勢いよく揺れた。