「ここで情けない姿をさらすわけにはいかないから、エリオ、君には少し付き合ってもらうよ」
「へ? ――うわっ」

 ぐいっと腰を引き寄せられた次の瞬間、エリザはフィサリウスの脇に抱えられていた。

(……待って。この状況、何?)

 王太子に片腕で持ち上げられている状況が、すぐ呑み込めなかった。

 すると、フィサリウスが唐突に走り出した。

「えっ、え、走るんですか!?」

 細い身体のどこにそんな力があるのだと思えるほど、彼はエリザをがっちり脇に抱えたまま颯爽と会場を駆ける。

 後ろから、ジークハルトが瞬時に雰囲気を引き締めて、ものすごく走って来た。

(こわ!)

 目を向けて、ぎょっとした。

 だがフィサリウスは、引き続きいい笑顔だった。一度だけ振り返り、追ってくるジークハルトに「こっちだよ」と余裕そうに声をかけていた。

「裏に通路があるから、そこまで我慢してね、エリオ」
「まさかのもう名前呼び――うっぷ、上下に揺られて気持ち悪いんですけどっ」