彼女は扇子を口許にあてて、美しい笑みを浮かべた。

 ジークハルトがふわりと目を和らげて挨拶しただけで、周りの令嬢達の視線が一気に彼へと集まった。

「貴女のような方に心配していただけるとは、私も幸せな男です」
「うふふ、お上手ですこと」

 なんだか、見ていてむずむずする恥ずかしさを覚えた。

 二人が向き合うだけで、場が豪勢な美しさを増すような気がした。周りの少女達も「王子様みたい」「お似合いですわ」と熱い眼差を送ってくる。

 エリザはそんな中、顔が引き攣らないよう必死に努めていた。

(誰だ、これ。というか……私、要るかな?)

 ジークハルト一人でできそう、というのが印象だった。

 しばらく侯爵令嬢とジークハルトの談笑が続いた。エリザは、優雅な男女の踊る姿をしばらく目で追って待った。

 けれどふと、ジークハルトの手元に気付いて「あ」と思った。

 下げられている彼の美しい指は、小さく震えていた。

(そっか。ずっと、そうだったのかもしれない)