その日は、雨だった。いつもは部活だけど、あまりにも雨が酷くて無くなったから、由那と一緒に帰ろうとしたの。

「由那、一緒に帰ろうよ」
「あー……ごめん! 今日用事があるの」

 最近の由那は早く帰るから、また例のカフェの友達に会いに行くのかと思った。でもこの雨だし、カフェは少し遠くの駅だって言っていたから、その日は止めようと思った。


「雨、夜になるとだんだん酷くなるみたいだから今日はカフェに行くのやめなよ。一緒に帰ろう?」

 私がそう言うと由那は少し困った笑顔で、ごめん、とだけ。
 何その態度、私は心配してるのに迷惑ってこと?

「……最近変だよ、由那」


 思ったよりも低くなった声に自分でもびっくりした。でも、なんだかモヤモヤしたから。


「今日はカフェに行くわけじゃないの。……友達と用事があって……」


 また、ごめん、と由那は謝ってきた。謝って欲しいわけじゃないのに。

 この頃の女友達というのは恋人と同じで、取られるのも自分の知らないことがあるのも、嫌だった。今思えばおかしな嫉妬心だけれど。

「誰と?」

 ここまで聞く必要なんてない、それはわかっていた。けれど、聞かずにはいられなかった。
 由那もそこまで踏み込まれたくないのか目を逸らして口を閉ざす。親友とはいえ、由那が本気で怒るところをみた事がない。由那はいつも、嫌な事を言われても笑って流す子だったから。

「待たせるのも悪いからさ、果凛は先に帰って?」

 苦笑して、私にそう告げる由那は何かを隠したがっていた。

「ねぇ、何を隠そうとしてるの」

 教室に、私たち二人の声だけが響く。雨音も、少しずつ大きくなっていた。


「隠そうとなんて……」


 由那がそう言葉を続けようとした時、ドアの方から足音が聞こえた。由那の笑顔が崩れて、ドアの方を睨んでいた。
 私も振り返ってそちらを見る。

「……なんで果凛もいるんだよ」


 私たちの視線の先に居たのは、私の彼氏だった。私がいることが嫌だったのか、舌打ちをこぼす。

「……どういうこと? 由那、私に秘密で私の彼氏と会ってたってこと?」


 由那は、もう困ったように笑ってごめんなんて言わなかった。ただ気まずそうに、私から目を逸らして視線を下に下げるだけ。

「アンタはなんで由那に会ってんの!? 今日バイトって言ってたよね?」

 この二人は私になにか隠している、そう思って私は何も言わない由那ではなく彼氏の方に行って怒った。


「うるせーな、別に誰と会おうが俺の勝手だろ」
「何それ、浮気ってこと?」

 ずっと、どこか自分勝手な彼氏だとは思っていた。けれど変に束縛してこないし、私といる時はそれなりに楽しそうだったから気にしてなかった。でも、浮気をされたのでは今までのことも含め怒りが沸いてくる。


「お前もうめんどくさい、別れよ」
「は? なんにも説明しないでなんで勝手に決めるの」

「……別れなよ、果凛」

 ずっと黙っていた由那が、口を開いた。いつもの明るい声でもなく、優しい話し方でもなく、ただただ淡々とした冷たい声。
 
 何が起こっていて、どうしてそうなったのか分からず、私は頭が真っ白になった。

 その日はどうやって家に帰ったのか、覚えていない。