未城さんの言葉に僕も驚いた。お葬式はショックで来れないことがあるというのは何となくわかるが、その後一度も来ていないことがあるだろうか。親友なら、尚更。

「……それ、は」

 彼女は目を逸らし、視線を下に向けた。答えにくいことなのだろう。未城さんにも答えにくいことがあった、だから、察して、わかりました、と言葉を続ける。

「ここでは話しにくいと思いますので、人目のないところに行きましょう」

 僕はてっきりあのカフェに行くのだろうと思ったのだが、三人で入ったのはカラオケ。確かに防音だし人目はないが、こういった場所になれていない僕はこの独特な空間に緊張した。


「由那は、確かに貴女の話をしていました。親友がいるって、昔写真を見せてくれたこともあります」
「……」


 果凛さんは俯き、座った膝の上に置いた手は拳を握っていた。僕には俯いている理由が、何となくわかった。

「未城さんを見ると、由那さんを思い出しますか?」

 僕がそう問いかけると僕の方を見て、また視線を落とした。図星、だったのだろう。やはり未城さんを連れてきてよかった。彼女がとても大人しく逃げずに話をしてくれる。

「……えぇ、だって似ているもの」
「双子ですから、私と由那は」

 なんだか今日の未城さんは僕と話す時よりもその柔らかさがなくなっている気がした。本気で、由那さんの事を考えているからだろう。


「双子……そういえば、言ってたかも、妹がいるって」

「……教えて頂けますか、どうして由那に会いにこないのか」


 いつまでも自分から話そうとしない彼女に未城さんは待てずにそう問いかける。僕はそれを見守ることしか出来ない。


「……会いに行けないの。私は由那に許されていないから」
「……どういうことですか」

 きゅ、と彼女が唇を結んだ。思い出したくない、言いたくない、そういった表情だ。僕が彼女に由那さんのことを聞いた時も、まず最初に、私のせいじゃない、そう言っていた。


「由那さんが死ぬ前、何があったんですか」


 僕は見守ることをやめ、できるだけ穏やかな声で問いかける。私のせいじゃない、は、まるで自分に言い聞かせているみたいだと思ったから。

 でも彼女はまた黙った。僕は少し困ったが、ここで引くわけにもいかない。


「教えて欲しいんです。由那さんがどうして自分から死を選んだのか、僕らはずっと知らないままだから」


 お願いします、と僕は頭を下げる。彼女が何かを言うまで、頭を上げない。しばらく、嫌な沈黙が続いた。


「……わかった。私も、ずっと引きずるのは嫌だし、何回もミトセさんみたいな厄介な客の相手はしたくないしね」

 大きなため息の後、彼女はそう言ってくれた。僕は厄介と言われたことは忘れることにして、ありがとう、とお礼を言う。


 そして、昔話が始まった。