果凛さんに加賀屋と連絡を取ってもらい、僕も彼の連絡先を教えて貰って、会うことになった。

 加賀屋はすぐに誘いに乗って、会う日時と場所を指定してきた。その場所は、この間未城さんと二人で飲んだバーだった。


 あの場所に行くと、カウンター席に加賀屋がいた。


「おー、田中」
「ごめん、待たせたね」


 加賀屋はまだ僕のことを田中と呼ぶ。案外バレないのがすごいと思った。
 席についてノンアルコールのカクテルを頼む。それはすぐに出てきた。


「で、俺に聞きたい話ってなに?」


 手にグラスを持ちながら、僕の方を見て問いかけてくる加賀屋。もう飲んでいたらしく、少し酔っているようにも見える。


「……眞鍋さんと今でも仲良いのかなって。最近二人で出かけてるらしいじゃん」


 友達への接し方、それは案外難しいもので、大人になってからだと余計だと僕は話しながら思っていた。

 それが偽物の関係なら、尚更。


「まぁまぁだと思う。まぁ、アイツが俺に話があるだけだったけどな」


 ふ、と笑いながら息を漏らす加賀屋。何を思い出して笑ったのか、でもなんだか少し不快に思えた。


「話って?」


 それでも僕は、友達のふりをして話を続ける。不快だろうがなんだろうが、今はこの人に話を聞かなければ、僕らは何もわからないままだから。

 持っていたグラスを口によせ、一口酒を飲んでからグラスを置いてカウンターに頬杖をついて加賀屋は話し始める。


「昔のことだよ。あれ、未城のこと覚えてる? 自殺した奴」


 ピクリと眉をひそめ、貼り付けた笑顔が崩れそうになるが、何とか保って、覚えてる、と答えた。


「未城の仲良かったやつの連絡先とか、職場とか、教えろって言われてたんだよ。だから、付き合ったとかそういうのはないぞ」


 安心しろ、と僕に向かって笑うのは、なんなのか。僕と果凛さんの仲を勘違いしているのかもしれない。

 でも僕は、その勘違いをさせておくことにした。


「あー、なら安心した。また二人が復縁するかと思ってたよ」
「やっぱりアイツのこと狙ってたのか」


 満足気に笑う加賀屋は、自分の考えがあっていたから嬉しいのだろう。
 僕はカクテルを飲んで、まぁね、と笑った。嘘だらけの自分が、ほんの少し気持ち悪い。


「喧嘩別れ、って言ってたヤツ、本当は覚えてるんでしょ」
「あー……まぁな」


 気になるのかよ、とこちらに視線を送るのを見て、聞いて欲しいんだろう、と察した。


「そりゃ、気になるよ」


 クスクス、と笑ってから、奢りか、と加賀屋は聞いてきた。全くこの男は、なんて思いながら、僕は頷いた。


「さっきも話したけど、未城にさ、俺が二股かけてるのバレたんだよ。それで、散々別れろって説得されてて」


 なんでそんなことを楽しそうに話すのか、なんて思いながら相槌をうちながら話を聞いていた。ポケットの中の録音アプリは、しっかり動いている。


「その話をしてる時に果凛にバレてさ、それで別れたんだよ」


 なるほどね、と流すように言った後、少し思考を働かせる。でも果凛さんは浮気だと思っていたようだし、由那さんは加賀屋の浮気のことを言っていなかった。未だに果凛さんはきっとそのことを知らないはずだ。


「未城さんとはその後何もないの?」
「ない。その後は向こうも関わる気がなかったみたいだからな」

「でも、未城さんの様子が変わったのって、そのことがあった後だよね」


 これで話を終わらせられたら、何もわからずになってしまう。そう思ったから、ほんの少し踏み込んで聞いた。すると加賀屋は驚いたように目を見開いてから、また笑い声を控えめに漏らして酒を飲む。


「それは、俺の二股かけてたもう一人の彼女にいじめられてたからだな」