「水戸瀬さん……?」
僕が話さないから、未城さんは僕を心配した。でも僕はしばらく口を開きたくなかった。ほんの少しの夢でも、彼女と会えたことが、嬉しかったから。
口を開いて言葉を話したら、さっきのほんの少し感じた幸福感とか、後悔とか、全部どこかに行ってしまいそうで。
未城さんは、ただ待ってくれた。
僕が黙っていることに対して、何も聞かず、ゆっくりと。
しばらくして、やっと僕は気持ちが落ち着いた。
「すみません、夢を、見ていて」
「夢……? 嫌な夢だったんですか?」
冷めきったカプチーノの下げ、新しいものを未城さんは出してくれた。そしてまた、僕の向かいの席に座る。
「嫌な夢ではありません。……ただ、複雑な感情にはなりますね」
カップを手に取り口をつける。淹れたてのカプチーノは熱く、僕はすぐに口を離した。
「無理はしないでくださいね。……頼んだとはいえ、水戸瀬さんが無理をするのは、嫌です」
「大丈夫ですよ。今回は、果凛さんが主に動いてくれるようなので」
それでも未城さんは僕を心配そうに見つめた。やっと冷め始めたカプチーノを一口飲む。
「あ、果凛さんは、今日は来ないんですか?」
思い出したように僕に問いかけてくる未城さんはなんだか、最初に会った時よりも幼く見えた。まるで友達を待っているように見えるからだろう。
「果凛さんは二次会に行きました。今日は夜中まで集まっているかもしれないから来ませんね」
「……そうですか、少し寂しいですね」
未城さんは苦笑して、僕から視線を逸らした。こうして二人でいる方が、僕としては落ち着くのだが。
「……僕らは、どんな関係なんでしょう」
ふと、僕がそう呟くと、未城さんはほんの少し驚いた顔をして、すぐにまた悩んだ顔をした。そうしてから未城さんは口を開いた。
「友人では、ないでしょうか」
「友人、ですか」
嫌ですか、と未城さんは問いかけてくる。僕は、いいえ、と首を横に振った。目的のための協力関係でも、友人と言えるのなら、僕と由那さんも友人と言えたのだろうか。
「果凛さんも、友人と認めてくれるでしょうか」
僕は考えていることを口には出さずに、そんな思考を無視するようにそう言った。
「案外認めてくれるかもしれませんよ」
「僕は果凛さんによく思われていないような気がするんですけど」
「それはお互い様でしょう?」
未城さんはあまり僕らの会話に口を出すことはないが、僕らの距離感をちゃんとわかっていたみたいだ。僕は少し気まずくてカプチーノを飲んでそんな感情を誤魔化した。
「僕は別に果凛さんのことが嫌いなわけではないです」
「それはわかってますよ」
「なんていうか、僕はあまり女性と関わらないので、あぁいう女性的な人との接し方がわからないんです」
そんな僕の言葉を聞いて未城さんはクスリと笑った。僕はそんな未城さんに、なんで笑うんですか、と小さく呟く。
「私は大丈夫なんですか?」
「……未城さんが女性的ではないと言ったわけではないです。種類、でしょうか」
「まぁ、言いたいことはなんとなくわかりますよ。私から見ても果凛さんは素敵な女性ですから」
未城さんは、一緒にこうして話しているとなんだか心が休まるのだ。昔の、由那さんとこうしてここで話していた時みたいに。
いつの間にかカプチーノを飲み終えていて、とっくに日は落ち始めていた。
「ではまた、三人が集まれる日に」
「はい。また連絡します」
こく、と未城さんが頷き、僕は代金を払って店を出た。
同窓会後から果凛さんと連絡が取れないのだが、大丈夫だろうか、そんな心配をしながら僕は、もう一度彼女にメッセージを送信する。あの加賀屋の態度を思い出すと、心配せずにはいられなかった。
これが、友人ということなのだろうか。
僕が話さないから、未城さんは僕を心配した。でも僕はしばらく口を開きたくなかった。ほんの少しの夢でも、彼女と会えたことが、嬉しかったから。
口を開いて言葉を話したら、さっきのほんの少し感じた幸福感とか、後悔とか、全部どこかに行ってしまいそうで。
未城さんは、ただ待ってくれた。
僕が黙っていることに対して、何も聞かず、ゆっくりと。
しばらくして、やっと僕は気持ちが落ち着いた。
「すみません、夢を、見ていて」
「夢……? 嫌な夢だったんですか?」
冷めきったカプチーノの下げ、新しいものを未城さんは出してくれた。そしてまた、僕の向かいの席に座る。
「嫌な夢ではありません。……ただ、複雑な感情にはなりますね」
カップを手に取り口をつける。淹れたてのカプチーノは熱く、僕はすぐに口を離した。
「無理はしないでくださいね。……頼んだとはいえ、水戸瀬さんが無理をするのは、嫌です」
「大丈夫ですよ。今回は、果凛さんが主に動いてくれるようなので」
それでも未城さんは僕を心配そうに見つめた。やっと冷め始めたカプチーノを一口飲む。
「あ、果凛さんは、今日は来ないんですか?」
思い出したように僕に問いかけてくる未城さんはなんだか、最初に会った時よりも幼く見えた。まるで友達を待っているように見えるからだろう。
「果凛さんは二次会に行きました。今日は夜中まで集まっているかもしれないから来ませんね」
「……そうですか、少し寂しいですね」
未城さんは苦笑して、僕から視線を逸らした。こうして二人でいる方が、僕としては落ち着くのだが。
「……僕らは、どんな関係なんでしょう」
ふと、僕がそう呟くと、未城さんはほんの少し驚いた顔をして、すぐにまた悩んだ顔をした。そうしてから未城さんは口を開いた。
「友人では、ないでしょうか」
「友人、ですか」
嫌ですか、と未城さんは問いかけてくる。僕は、いいえ、と首を横に振った。目的のための協力関係でも、友人と言えるのなら、僕と由那さんも友人と言えたのだろうか。
「果凛さんも、友人と認めてくれるでしょうか」
僕は考えていることを口には出さずに、そんな思考を無視するようにそう言った。
「案外認めてくれるかもしれませんよ」
「僕は果凛さんによく思われていないような気がするんですけど」
「それはお互い様でしょう?」
未城さんはあまり僕らの会話に口を出すことはないが、僕らの距離感をちゃんとわかっていたみたいだ。僕は少し気まずくてカプチーノを飲んでそんな感情を誤魔化した。
「僕は別に果凛さんのことが嫌いなわけではないです」
「それはわかってますよ」
「なんていうか、僕はあまり女性と関わらないので、あぁいう女性的な人との接し方がわからないんです」
そんな僕の言葉を聞いて未城さんはクスリと笑った。僕はそんな未城さんに、なんで笑うんですか、と小さく呟く。
「私は大丈夫なんですか?」
「……未城さんが女性的ではないと言ったわけではないです。種類、でしょうか」
「まぁ、言いたいことはなんとなくわかりますよ。私から見ても果凛さんは素敵な女性ですから」
未城さんは、一緒にこうして話しているとなんだか心が休まるのだ。昔の、由那さんとこうしてここで話していた時みたいに。
いつの間にかカプチーノを飲み終えていて、とっくに日は落ち始めていた。
「ではまた、三人が集まれる日に」
「はい。また連絡します」
こく、と未城さんが頷き、僕は代金を払って店を出た。
同窓会後から果凛さんと連絡が取れないのだが、大丈夫だろうか、そんな心配をしながら僕は、もう一度彼女にメッセージを送信する。あの加賀屋の態度を思い出すと、心配せずにはいられなかった。
これが、友人ということなのだろうか。